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2003年7・8月号Vol.52

P1■巻頭コラム&Photo:「市民社会に向けて、個人はどうあるべきか」
P2-3■ひとり占めをしてもいいの!? 〜「NPO」商標登録問題を考える〜
P4■NPO法人の消費税基礎講座 前編
P5■快適なパソコン環境を実現しよう!チェックB 使い手のスキル編
P6■上海的社会/市民事情Vol.2 上海市民の一日
P7■PLANET VOICE Vol.21自立型人間をめざして航海中!大阪NPOセンター・ボランティアスタッフ 山田栄喜さん

 

ひとり占めをしてもいいの!?
〜「NPO」商標登録問題を考える〜

 

 定期刊行物の名称に「NPO」という3文字を使用している団体は多いことでしょう。しかし、それが一企業の専有になったら!?今回、NPO関係者のみならず広く議論が沸騰した「NPO」の商標登録問題。その本質的な問題点と今後の展開の視座は?法律的な問題としてだけでなく、市民社会の未来という点からも論じられるべきこの問題について、論点整理をしながら考えましょう。。

1 はじめに
 角川書店(本年4月から(株)角川ホールディングス、以下「角川」)が、昨年1月に雑誌・新聞を指定商品とする「NPO」と「ボランティア」の商標登録を特許庁に出願し、本年4月25日に登録され、5月27日には公報が発行されました。これにより、角川以外の者が、「NPO」と「同一又は類似の範囲内で」雑誌・新聞の名称で使用すると権利侵害となり、角川が侵害の差止、損害賠償請求をしようとすれば可能になるほか、故意に侵害した場合には刑事罰の対象ともなります。
 この事態は、当センターを含む4団体が6月に情報発信してから議論が沸騰しました。特に、特許庁が「NPO」を雑誌・新聞の商標として認めたことで、NPO関連情報の発信に支障が出るとの懸念が広がっています。必ずしもNPOの言葉を含む題号すべてが禁止されるわけではありませんが、類似性の判断は極めて微妙なため、題号に「NPO」を含む雑誌新聞の発行を避ける傾向が出るのは必至と言えます。

2 今回の問題の論点整理
@商標とは、文字、図形、記号もしくはこれらの結合または色彩との結合であって、その商品やサービス(以下、商品等という)について使用するものをいいます。その本質は、識別機能にあります。特許庁が商標登録を認めることは、排他権を認めることですから、他と区別できる「自他識別力」が必要になり、また、排他権を認めるに足る「独占適応性」のあることが必要な要件と言えます。独占適応性とは、そもそも自他識別力が無いため独占に適さないものの他、特定人に独占させることが不適当な商標、つまり一般人が自由に使用できるようにしておくことが公益上要請されるようなものも入ると解されます。
A新聞等で報道された際、拒絶する理由がないので認めたとの特許庁のコメントがありました。その判断は正しかったのでしょうか。
 まず、商標法(以下「法」という)3条1項で定める登録を認めるための積極的要件のうち、3号の「記述的商標」、4号の「ありふれた名称」、6号の「需要者が認識し得ない商標」などの項目が当たるのかどうかが問題になります。
「NPO」という言葉は、阪神淡路大震災以降に盛り上がったNPO支援の運動や、98年にNPO法が成立したこともあって、いまや社会のあらゆる分野で急速に浸透し、普及しました。このため、新聞・雑誌の業界においても、「NPO」の語は、NPO法人や広義には非営利組織一般を表示するものとして、極めて普通に使用されています。このことから、「NPO」のみからなる本件登録商標は、単にNPOに関する内容を含むことだけを表わすものと認識するに止まり、自他識別標識としての役割は果たせないと考えます。また、NPOの活動が発展していくことは、民主主義社会の発展にとっては不可欠なものであり、刊行物の定期発行等という形での表現手段が無くてはならないものです。このことからして、これを雑誌新聞の分野で特定人に独占させることは、NPO法第1条に定めたNPOの発展促進の目的に反するものと言えます。さらに、憲法上の観点からしても、表現出版の自由の制約、民主主義発展の阻害事由とも言え、およそ商標としての独占適応性が無いと言うべきでしょう。このことから、法3条1項3号、4号、6号、同条2項の解釈として、一般人が自由に使用できるようにしておくことが公益上要請される本件のようなものは、そもそも識別性が無く、積極的要件に欠けるものと考えます。
 さらに、登録を認めない消極的要件を定めた法4条1項のうち、6号(公共機関標章)や、7号(公序良俗違反)、15号(出所混同)、16号(品質誤認)なども当たるものと考えます。6号に関しては、実在する特定の団体の標章を指し、NPOの語は入らないと言われますが、これは特許庁の判断基準での解釈でしかありません。そもそも、特定の団体の標章が保護されるのに、それを包括する概念である「NPO」という、より著名な標章が保護されないのは、こういったものを特定人に独占させないという法の趣旨に反するものと考えます。
 また、7号の公序良俗違反には、社会公共の利益又は社会の一般的道徳観念に反するものが含まれています。前述したように、NPOを雑誌新聞の分野で特定人に排他権を持たせることは、まさに公共の利益を害し、社会の一般的道徳観念に反するものと言うべきです。さらに、公正な競業秩序の維持という観点からも、すでに不特定多数の者によって汎用的に使用されているNPOという言葉を、剽窃的に登録するのは、公序良俗違反と言わざるを得ません。
B角川は、6月6日の社告で「弊社の商標権は、各地のNPOもしくはボランティア団体が非営利の目的で発行される場合には及ばない」と述べています。しかしながら、商標は業として商品等に使用するものですが、「業」とは営利的な目的で行われることに限らず、一定の目的のもとに継続反復して行うことを言うので、NPO等が発行するものに権利が及ばないとは言えません。したがって、先の社告は「非営利目的なら黙認する」と解釈すべきでしょう。市民活動支援を述べてはいますが、その独占から生じる弊害には気づいておらず、市民活動への理解が薄いように感じます。

3 公共財産としての「NPO」
 ここで、今回の問題を考える際に参考になると思われる過去の事例を見てみましょう。
@福島県石川町で起きた「母衣旗(ほろはた)事件」というのがあります。これは、町がまちおこしのために、伝承的地名である母衣旗という言葉を町の特産品の標章として使用するように奨励していたところ、ある人物が、この言葉を商標登録したというものです。町が登録無効審判を請求したが、特許庁がその請求を認めなかったため、提訴しました。東京高裁は、99年に「本件商標の取得は、公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、『母衣旗』名称による利益の独占を図る意図でしたものといわざるを得ず、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものというべきである。」(要旨)として、この商標を無効としました。
A「野外科学KJ法」事件も参考になります。これはKJ法を創案し、野外科学等の分野でKJ法の普及に努めたAが、「野外科学KJ法」の文字を商標登録したBを相手に無効審判を求めたところ、特許庁は、「創案者やKJ法学会等の関係者の利益を害し、剽窃的であって、社会の一般的道徳観念に反し、公の秩序を害するから無効」との審決をしました。これを不服とするBが提起した訴訟において、昨年、東京高裁は無効判断を支持しました。
B今回の問題と@Aの事例に共通しているのは、広く普及し「公共の財産」となった言葉を、特定人が独り占めを狙って登録したという点です。「野外科学KJ法」は特定の人物の創案でしたが、NPOという言葉は、多くの市民が大切に育て、意味を深め、社会に重要な位置付けを与えてきたものであることを考えれば、その独占行為はまさに市民からの剽窃行為と言えるのではないでしょうか。「NPO」という公共財産たる用語の商標登録が認められたことで、公共性の高い市民活動全体への大きな障害となるという点で、今回の件はさらに由々しき事件であると言えます。

4 論理の衝突とこれからの市民社会
 商標制度自体は当然に必要な制度です。非営利団体でも商標を登録している例が数多くあります。そういう意味で、今回の角川の出願も動機自体は理解しようと思えばできないこともありません。しかし、今回の問題をめぐる一連の動きは、公共的な分野での自由な活動を重視する市民活動の論理と、専有利益を重視する営利事業者の論理が重なり合う場面で衝突が生じたものと言えます。この場合、所有権においても公共の福祉からの制約があるのと同様に、商標においても、それが公共財ゆえ特定人に独占させることが真に社会公共の観点からして弊害が大きい場合は、独占は抑止されるべきです。このことは、単に営利企業だけでなく、NPOを含むあらゆる社会の構成員に普遍的に言えることで、どの立場に立った場合でも常にそのことに留意をしていかねばならないと思います。そのことの理解さえあれば、角川も出願の時点でセーブし得たでしょうし、特許庁もより慎重な判断を行っていたのではないでしょうか。
 今回の問題は、盛り上がる市民活動での活動論理と、他セクターでは通常と言われる活動論理との衝突が、これからもありうることを暗示しています。逆に言いますと、これからの市民社会においては、営利・非営利・行政の各分野が交錯する場において生じる双方の論理衝突のなかで、上位理念としての「真の公共性」とは何かを常に共に考えあい、理解し合っていくことが求められます。このことは、NPO側からしても、関係者の論理だけでは衝突する部分があることを念頭に置きつつ、他の論理者との理解を深め合っていく努力が必要でしょう。

5 おわりに
 今回の問題で特許庁に対し登録異議の申立をする予定ですが、こういった議論を冷静に進めていく必要があると考えます。特許庁がこの問題の公共性を理解できたならば、国民が納得できる判断がなされるものと信じます。しかし、十分な理解を求めるには、この問題をNPO関係者だけの問題に終わらせないで、これからの日本の社会のあり方に大きく関わる問題として、広く世論が声を上げて、当初の認定判断に問題があることを訴えていくことが重要であると思います。
(大阪NPOセンター理事・弁護士/三木秀夫)

商標法(関連条文抜粋)

(商標登録の要件)
第3条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
 (3)その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格 若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物 、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示す る標章のみからなる商標
 (4)ありふれた氏名又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
 (6)前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識すること   ができない商標
2 前項第3号から第5号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

(商標登録を受けることができない商標)
第4条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
 (6)国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの 又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は 類似の商標
 (7)公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
 (15)他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げる ものを除く。)
 (16)商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標   (後略)

(商標権の効力)
第25条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。         (後略)

(登録異議の申立て)
第43条の2 何人も、商標掲載公報の発行の日から2月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号の一に該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。 (後略)

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