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Vol.57

■【特集】企業の社会貢献と社会的責任論〜その2〜
■第5回定時総会報告
■コンサルティングの心構えとは?〜実りあるコンサルティングのために〜
■PLANET VOICE(24)「人は“夢の球根”を持っている」SHOW-COMPANY代表 阪上めいこさん

 
企業の社会貢献と社会的責任論
<その光と影の融合の道> その2
 

 前回は、「CSR(企業の社会的責任)」のうち、「〜責任」とされる部分への企業の取組みが受身になりがちであること、および社会貢献への取組みが経営上の重要課題になりにくいことをその背景とともに述べた。
 本稿では、
@現在の社会貢献とされているものが、将来どのような変容を遂げうるのか、そしてそれを前提に企業はもとよりNPOを含めどのような取組みが考えられるのかを提示し、
Aその過程においてCSRが経営戦略にまで組み込まれることにも触れておきたい。
 これらの視点は「社会貢献活動の再定義」であり、企業にとっては「冷徹な法人」から「血の通った法人」への転換である。また「人間の本性を事業マインドのコアに据えた新たな市場創出」への挑戦でもある。
 なお本稿での「社会貢献」という用語は、従来のメセナ・フィランソロピー的な意味で使用するので、環境貢献などの範疇は含めていない。また前回同様、本稿もあくまで個人的な視点であることをお断りしておく。

1 社会貢献活動の経営戦略への組み込み

(1)企業の社会貢献の脆弱性
 企業の社会貢献が前回述べたような様々な課題を抱えたまま今後とも推移するなら、それは企業にとって永久に経営上の重要課題にはなりえない。「企業イメージの向上」や「本業への関連付け」を社会貢献の大儀に掲げていても、「具体的なリターンが見えにくい経営資源の使用」という本質に変わりはないからである。仮に、我が国企業が一斉に「社会貢献を止めよう!」と言い出したら、絶好の機会と即座に中止する企業が続出するだろう(気の利いた企業は逆にイメージアップの最大のチャンスととらえるかも知れないが・・・)。横並び主義の企業の社会貢献にはそういう脆弱性があるのは事実である。換言すれば経営戦略に組み込まれていないという証左でもある。また、企業の社会貢献が社会的課題の解決に本当に深く関わっているのかというと必ずしもそうとは言い切れない。現時点では「社会貢献的な」活動を行っているが、社会的課題を具体的にどう解決していくのか、という本質的な面では、本来の事業で取り組んでいるような明確なビジョンはないというのが実情であろう。
 ではこのような脆弱な社会貢献ではなく、経営戦略に組み込まれうる社会貢献とはどのようなものなのか?次にそれを見ていこう。

(2)経営戦略に組み込まれる社会貢献とは?
 経営の柱に位置付けられるということは、あたりまえだが社会貢献自身が企業の経営努力の方向性に一致する活動目的を有しているということである。その取組み姿勢は、大きく次の二つに分けられる。
@社会貢献を「経営戦略の手段」と考える
A社会貢献それ自体を「経営目的の一部または全部」とする
 @では、基本的には「利益追求」を目指すことになるし、Aでは経営目的そのものの見直しとなり、「ミッション経営」の視点から社会貢献の位置付けを明確にするという手続きを踏むことになる(後述)。
 まずは@の視点について考えてみたい。「経営戦略の手段」になるということは、社会貢献が
(イ)顧客の維持・拡大につながる
(ロ)企業のブランド力強化に大きく寄与する
(ハ)経営上の課題解決(効率化、コストダウン)に寄与する
(ニ)新しい市場創出が可能になる
(ホ)長期的な企業発展を支える社内求心力を高める
といった可能性を有しているということである。ではこれら(イ)〜(ホ)の各ポイントについて整理してみよう。

(3)経営戦略の手段としての社会貢献の可能性
             
(イ)顧客の維持・拡大につながるか?
 顧客の維持・拡大につながる社会貢献を論理的なフレームで設計するのは容易ではない。素晴らしい社会貢献活動を行い、それ自体が高く評価されても消費者が実際にその企業の商品を購入するとは限らない。消費性向というのは非常に移ろい易いもので、例えば効果的なCMを打つことで一時販売が伸びても、やがて売上は低下していく。ただしCMを見て興味を持った消費者が実際に商品を購入し、商品自体に価値を見出した場合は販売の維持・拡大が期待出来る。
 社会貢献についても同様であって、素晴らしい活動に共感した消費者がその企業の商品を購入するきっかけは作ることが出来よう。自社商品が他社製品と同等の品質のものであれば、社会貢献に熱心な企業という「社会貢献ブランド」そのものが商品選択に一定の影響力を与えることもある。つまり社会貢献が企業の競争優位性を引き出すことになる。ただしこれが成功するためには、社会貢献活動と商品の両方が他社と十分差別化できる程度に優れていなければならないし、社会貢献コストがCMコストよりも低い場合に限られる。しかし両者の費用対効果の比較は現実には非常に困難であり、一般にはCMの方が社内の納得性は高いであろう。ただ事業分野(高齢者対象商品の販売など)によっては、ボランティアによる訪問機会の活用あるいは社会貢献の活動機会におけるさりげない商品PRといった顧客戦略は可能である。

(ロ)企業のブランド力強化に大きく寄与するか?
 前項(イ)でブランドについて触れたが、それ以外にもブランド力強化に関する視点がある。非常に崇高な目的を掲げた活動は、推進者が少数であるにも拘わらず、強力な支援者を大規模に動員できることがある。筆者はこれを「共感レバレッジ(てこ)」と呼んでいるが、これは人の心を通じた共鳴エネルギーの結集であり、宗教などはその典型である。
 これに関して、企業の事例を一つあげておこう。それは国連の要請を受けて地雷除去プロジェクトのNPOを立ち上げた小さなハイテク会社(埋設物探査会社)が、その活動に共感したトヨタやIBMなどといった世界有数の大企業数社との見事なタイアップを成功させたというものである。この活動によって、その小さな会社の知名度は当該分野で国際的にブレークした。勿論、参加各社にはそれぞれの思惑もあっただろうが、底流に「使命感」という人間の本性に訴える求心力がなければ実現しなかったプロジェクトである。
 勿論この事例でも(イ)で述べたと同様に、その基礎に元々優れたノウハウや商品力の存在が前提となっていることは見逃してはならない。実体を伴わないブランドの空虚な一人歩きは、一夜にして終わる。ただし前回述べたように、「〜すべき」とされる部分(経済責任、遵法責任、倫理責任)はある意味で「やって当然のこと」をしたに過ぎないのだから、もはや特別な世間の賞賛の対象とはならなくなり、これ以外の裁量範囲、つまり「社会貢献」としてどれだけ企業が取り組んでいるのかが問題視され始めると、社会貢献ブランドの重みが増す可能性はある。

(ハ)経営上の課題解決(効率化、コストダウン)に寄与するか?
 通常コストセンターと見られることが多い企業の社会貢献が、経営効率化に寄与することは可能であろうか?経営の効率化とは、「人件費の圧縮」「経費削減」「業務プロセスの最適化」などである。社員のNPOなどへの出向(または転籍)は、NPO支援と本人のセカンドライフ支援になると同時に人件費圧縮にもなるという面を併せ持つ。出向先NPOからの労務費返金は現状ではあまり期待できないが、人件費には直接労務費以外に間接労務費が大きく、社員が社外へ出ることが経費圧縮につながることになる。しかしこれを経営効率化というには、現時点で受け入れられるNPO数から言っても少し違和感があるのも事実である。
 本当のコストダウンを考えるのなら、むしろもっと長期的な視点で考える必要がある。つまり出向先NPOの拡大も含め、通常ではコストがかかり過ぎる商品開発やサービス提供について、NPOとタイアップすることにより、より廉価なマーケティング力を持つことは理論的には可能である。そのような形で企業とタイアップできる専門性の高いNPOは現時点ではそう多くはないが、そのようなNPOとの協働体制を中長期的な観点から徐々に構築していくという視点はありうると考えられる。

(ニ)新しい市場創出が可能か?
 社会貢献を通じて本体事業に関連したどのような市場創出が可能になるのか?いわゆるソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)等による「社会的課題解決に向けた事業(本稿では以下、「社会変革事業」と呼ぶ)」の萌芽は、現在でも既に見られる。しかしこれらの事業は、高コスト構造になっている既存の企業が採算性を担保しながら手を出すには勇気がいる労働集約型の分野が多い。しかし振り返ると我が国の産業の黎明期には、まさしくこのような労働集約型産業が主流であった。それが幾多の合理化や技術開発により現在の大企業を形成したのである。問題はどのような事業対象を想定し、どこまで効率化を進められるかであり、さらには当面の利益は度外視して早期に事業ノウハウを習得し、適切な時期に本格的に乗り出すという方向性は存在するはずである。この場合、企業が本体事業で築いてきたノウハウを統合し、進出できる分野を早期に特定することで、本体事業とのシナジー効果まで含めた事業展開を行うことが可能である。
 ただし、企業が本業での競合にしのぎを削っている現状でこのような分野を検討するだけの余裕を持ち合わせていないという現状もある。この市場はこれからの成長分野とも言え、大企業が躊躇している間に、むしろ才覚のある起業家あるいはNPOこそが創造性と知恵を発揮できる分野と言えるかも知れない。あるいは、地域の生情報を豊富に有しかつビジネスの才覚を持つNPOなどが自ら新企画を起こし、企業へ提案することでビジネス・タイアップが成立する可能性がある。

(ホ)長期的な企業発展を支える社内求心力が発揮されるか?
 現在でも、社会貢献に熱心と見られる企業への関心は新卒の就職希望者に多いが、さらに前項(ニ)であげた「社会変革事業」への進出を明確にした企業にあこがれる人材は、新卒に限らず潜在的には非常に多いと考えられる。それは、@事業そのものの社会的意義が直接的に感じとれるものであり、いきがいのある仕事になる、A事業がこれからの分野であり、チャレンジ精神をくすぐるものである、B結果として、やる気のある良い人材が集まる…など、社内の求心力を醸成するのに一定の役割を果たす可能性がある。ただし、現下の企業において社会貢献担当部署が「社会貢献の強化」を旗頭に求心力を高められるとするのは、かなり無理がある。本当の求心力を結集するためには、やはり社会貢献あるいは社会変革事業が具体的施策とともに「経営理念」に明示され、関係者の意思統一を図らなければならない。

 このように、(イ)〜(ホ)のいずれにおいても、社会貢献を経営戦略に組み込みうる側面が見え隠れするが、基本的にはやはり(ニ)の「新しい市場」へのチャレンジがポイントとなる。つまり「社会変革事業」を長期経営戦略の一つのコアと位置付け、本体事業とのシナジー(波及)効果を視野に入れながら長期計画を策定するという視点である。この視点は企業のみではなく、協働相手としてのNPOやベンチャー企業にあっても考慮に値すると考える。
 では、次に「社会貢献それ自体を経営の目的化する」際のポイントになる「ミッション経営」について見ていこう。

(4)「ミッション経営」について

@「ミッション経営」とは?
 「ミッション経営」を一言で表現すると、経営の意思を、「〜すべきである」から「〜したい」という視点に変換することである。つまり、ある積極的目的意識の下に、「〜したい」という対象を明確にし、これを経営理念としての「ミッションステートメント(宣言)」で内外に明示し組織内に徹底させるということである。簡単に言うと、「あなたは企業や仕事を通じて実現したいことは何か?」という根源的な問い掛けに答えることでもある。このミッションステートメントに則った経営を行うことを「ミッション経営」という。ただしこれは、ミッションステートメントとして単に宣言文を書けば良いというものではない。ある手法を用いてその宣言を実際に実現するための論理的プロセス(戦略マップ)も厳密に記述することが不可欠なものである。そして出来上がったものは、いわば企業の憲法体系であり、多様な価値観を持つ利害関係者間での調整も必要となり、ミッションステートメントの作成はそう簡単ではない。
 しかしながら、米国の巨大企業の中でも先見性のある経営者は、数年前から何ヶ月も割いてこの基本的かつ重要なテーマについて議論してきた。「わが社の究極のミッション(目的)は何か?」「わが社の存在意義を何に見出すか?」そして「現場のあらゆる課題を解決するための指針となるミッションを明文化しよう!」。彼らはこのような議論に真剣に取組み、ミッションステートメントの作成に全力を上げて来た。それが自社の長期的発展の基盤であると認識したからである。
結果的にそれらの企業は現在非常に高い業績を上げている。それはこのミッションステートメントが単にお題目にとどまらず、日々の現場での判断にも使えるほど明快であり、しかもその内容が人間の善なる本性のベクトルに合致し、素晴らしい求心力を生み出したからである(一度、世界トップおよびわが国トップの製薬会社のホームページを見られると、ミッションステートメントの参考になると思う)。

ACSRとミッションステートメント
 非常に崇高でかつ具体的な経営のミッションは、実はCSRに関する取組み宣言とも良く馴染む。人間を良く理解し吟味された「ミッションステートメント」を作成し、それを従業員一人一人に浸透させた時、その組織はことさらCSR云々と言わずとも、自ずからCSRにもかなった振舞いをするはずである。完璧とは行かないまでも、少なくとも「利益至上主義」に比べてはるかにリスクの少ない優れた事業運営を実現することが出来よう。これこそが、最も基本的でかつ有効な経営戦略である。
 優れた「経営ミッション」の求心力は、優れた新商品やサービス開発への最短距離を敷くことにもなる。そのような使命感に溢れた企業がステークホルダーからの共感や支持を呼ばないわけがない。そしてこのミッション経営の最前線にいるのが実はNPOなのである。というよりも、NPOはまさしくミッション経営そのものからスタートしている。この点では、小回りの効かない大企業などよりもNPOの方にアドバンテージがあるということになる。

(5)社会貢献の事業性と「社会変革事業」
 以上、社会貢献が経営上重要になる視点について色々述べて来たが、今後コアになる考え方はやはり、社会貢献が何らかの事業性を持たなければその有効性も永続性も担保されないということである。勿論、企業として純粋性(無償の愛、陰徳)を保った社会貢献の永続性が確保できればそれに越したことはない。しかし、それが何らかの形で経営戦略の柱に位置付けられなければ、経営環境の悪化や経営者のマインドの変化とともに社会貢献そのものが縮小してしまうリスクがある。活動が社会に入り込んでいればいるほど活動縮小のダメージは大きい。
 逆に、たとえ経営上のリターンを求めるからと言って、それが社会貢献の名にもとるかといえば、それは「社会貢献」という言葉に対するある種のこだわりに過ぎない。むしろ社会を本当に良くしようと思えば、やはりまず企業が本気で取り組もうという意欲を示し、その経営資源を有効に活用するのが近道である。そして地域の実情を深く知り、その分野での専門性の高いNPOとのタイアップが出来た時、活動に大きな実効性を付与することになる。そして早く着手した企業やNPOこそが、ノウハウの早期蓄積によりその新分野でのリーダーシップを発揮することが出来る。

2 社会変革事業への挑戦

 「社会変革事業」とは、狭義には現在の社会的課題の解決事業であるが、広義には、より良い社会作りを推進する事業である。それは社会的課題に深く焦点を当て、使命感に溢れた近未来先取りビジネスでもある。既に我々の実感として、社会にさまざまな変化が生じている。下記にその一端を挙げているが、これらは一例であって、まだ顕在化していない変化も多く存在するはずである。

 ・小さな政府(官・行政)と民力の活用
 ・NPOの飛躍的増加とそのビジネス志向化
 ・定年延長の動き
 ・独居老人問題
 ・障害者の自立化
 ・単親家庭問題
 ・雇用形態の変化(派遣社員の急増など)
 ・フリーターの増加
 ・個々人の価値観の多様化
 ・急速な情報化とそれに伴うデジタルディバイド(格差)
 ・成熟産業の成長余地の低下と閉塞感

 「社会変革事業」は過去のビジネスの尺度では計ることの出来ない新しい価値観の導入と、人間への深い理解が必要な事業になると思っている。具体的なビジネスモデルをここで提案することは控えるが、多様な変化の一つ一つを吟味し、異なる要素をうまく融合させることが「社会変革事業」成功のキーになるだろう。
 現在既に、これらの変化を先取りする主体が、既存企業ばかりでなく、NPOあるいは個人まで広がって来ている。そして大小を問わず、企業はもはや企業間同士の競合のみでなく、新しい市場におけるNPOやベンチャー企業との協働・競合も視野に入れた事業展開を考えるべき時に来ているのである。

終わりに
 かつての近江商人の優れた起業家の亡霊が近い将来に甦り、現在少数派であるが故に大きな可能性を秘めた社会起業家やNPOが大企業を脅かす日が来るであろう。彼ら未来の大企業・巨大NPOのシーズは、既に見えている。社会起業家のターゲットは、「世のため、人のために貢献するビジネス・アドベンチャー」である。これが彼らの明快な経営ミッションであり、古ぼけて融通が利かない既存の大企業にとっては大きなライバルとなるかも知れない。「社会変革事業」は、まだまだこれからの世界であり、早く立ち上がった人が勝者になる近道にいる。

(春井徹郎/大阪ガスいきいき市民推進室長・大阪NPOセンター理事)

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